FTMとして生きる上で〜知人編〜
FTMとして治療をしたり生きていく上で、僕が個人的に大切だと思うことを列記しました。
参考になれば幸いです。
@周囲の理解を得ること
GIDだと知ったらきっと友人達は皆自分から離れていくだろう、と、長いこと思っていた僕が言うのもアレなのですが、見た目や性別が変わったことが原因で離れてく友達なら、きっとそれがなくても些細なことで親交が途絶える人だと思います。
そういう人たちはこっちから願い下げで良いと思います。
その人と関係構築ができていれば、相手にとっては性別が変わることなんて髪色が変わるくらいの変化だろうし、大事なのは理解してもらおうと相手に歩み寄り、そしてGIDと確り自分自身が向き合うことが必要です。
やはり、家族や友人の理解、支えがないと、自分の心持ちだけではなかなか精神的に辛いところがあります。
勿論、ネットで繋がった顔の見えない友達でも良いです。
僕も最初は“誰も自分の気持ちをわかってくれない”と酷く気持ちが沈んでいましたが、それって結局僕が分かってもらう努力をしてなかったからなのです。
人間て本当に単純な生き物なので、周りが応援してくれたり気遣ってくれたり、それだけで日頃の小さな悲しみなんてどうでもよくなって、自分は間違ってないって思えるようになりますよね。
僕の場合、両親共に「今だけの思い過ごしで、勘違いだと思う」と、最初は全然取り持ってくれなかったけど、一人部屋がなくても、他の子みたいに沢山習い事ができなくてもわがままを言うことはなかったし、ゲームを買って欲しいとねだったこともなければ、お年玉の額が少ないとダダをこねたこともない、進学や就職に関しても何一つ文句を言わず従ってきた僕が、初めて「あなた達の言ってることに反論します」と、正面から向き合おうとしたことが二人を動かす糧になったんじゃないかと思います。
繰り返しになりますが、大事なのは理解してもらおうと相手に歩み寄ることです。そして、GIDのことを知り、自分自身がそれに向き合うことです。
A治療や手術は慎重に進めること
GIDの治療や手術には、本当に時間とお金がかかります。
また、様々なリスクが伴う上、幾つかの段階を経た後では後戻りは絶対に出来ません。
治療後は治療後で、沢山の困難や障壁が待っています。
早く治療して手術して名前も戸籍も変えて普通に生活したい!という気持ちは勿論分かります。
ただ、中途半端な決意や軽はずみな考えで治療に踏み切って欲しくないのです。
先日、手術費用の価格の安さに引かれ、都内の小さな診療所で乳房除去手術を受けた方が亡くなったという記事を読みました。
ごく稀にですが、精神科に通わずしてホルモン注射を打ち始める人もいるようです。
結果、すごいスピードで問題なく戸籍変更まで終えることが出来るかもしれませんが、自分の一生を左右することであることをしっかり認識してください。
小さい頃からGIDの自覚がある人からすれば大きなお世話かもしれませんが、
じっくり考え、 じっくり話し合い、 じっくり計画を立てた上で行動に移すべきだと、3年掛かりで戸籍変更を済ませた今でも僕は思っています。
B自分本位にならないこと
僕の体だから誰にも文句を言われたくないし、僕の好きなようにしたい。
ずっとそう思っていたけど、僕を産んでくれた両親がいて、その両親を産んでくれた祖父母がいて、僕の下には妹や弟もいます。
僕という人格を形成するためには、いけないことを叱ってくれた先生や、涙が出るほどの感動と悔しさを教えてくれたサッカーの存在、友情や裏切りを教えてくれたくれた友人達や見返りを求めない愛情でこれまで育ててくれた家族がいます。
色んなものや色んな人で僕という人間が創られていたことを考えたら、自分だけが辛いみたいに思っている僕は、自分勝手なんだろうって惨めなほど恥ずかしいと思いました。
20年間以上“女の子”だと思っていた自分の娘がいきなり「実は心は男なんです」なんて言い出したのに、最終的には「あなたの人生だからあなたが決めなさい」と、僕に託してくれた両親の痛みや苦しみや哀しみ、理想と現実や本音と建前の狭間で葛藤し悩んだ日々、多分その半分も僕は分かってあげられていないと思います。
友人達だって、もしかしたら聞きたいことが沢山あるかもしれないけどその話題には触れず、照れるなーなんて言いながら新しい名前で呼んでくれる。
職場の人達だって、未だに僕が男子トイレに入ることに違和感を感じる人もいるかもしれないですし。
「式は挙げなくていい。子どもは嫌いだから」と言う恋人も、僕と一緒にいるせいで選択肢が少なくなったのは事実です。僕はそんな人達に囲まれながら、普通に“男”として生活できているのです。
僕よりもずっと深い哀しみや悩み、苦しみを抱えている人は沢山いるだろうし、実際、一番辛いのは本人だと思います。
だけど、決して全てを自分本位に考えるべきではないことは分かって欲しいです。
C男磨きを怠らないこと
改名したから良い、戸籍変更したから完了、ではなく、見た目に関しては常に男磨きを怠ってはいけないと思います。
僕は元々毛が薄く少ないので、髭ももみあげも悲しいくらい殆ど生えないけど、限られた時間内で少しづつでも体を鍛えようと、ランニングをしたり筋トレをしたりしています。
女性期間が長ければ長い人ほど、いわゆる女性特有の体型を隠すのは難しくて、160cm50kgの僕でも男性の直線的な体にはまだまだ遠く、もう少し体を絞るか筋肉ムキムキになるかしないと、海やプールなど、外で裸になるのはちょっと厳しいなーと思っています。
逆に体型がわからないくらい太るっていうのもある意味一つの手だとは思いますが、どうせなら細マッチョになりたいですよね。
そして、中身の話をすると、GIDであることをカバーできる強みを作ることも大切です。
悲しいけれど、僕らは生まれた時から男だった人と比べたら色々なハンデを負っています。
背は低いし何かとお金がかかるし“普通の”性行為はできないし子供も作れません。
まともに戦ったら負けが目に見えているわけで、だからこそそれをカバーできる自分の強みや売りを作らなきゃいけないと僕は思います。
めちゃめちゃ優しいでも良い。
めちゃめちゃ仕事ができるでも良い。
気が利くとか思いやりがあるとかスポーツが得意とか物知りとか、何でも良いから突出した何かを持ってないと、思いがけず現れた障害物や敵とは戦えないです。
その為に、他の人にはない得意分野をせめて一つくらいらいは持っておきたいものです。
D社会的に自立すること
僕は知り合いにあまり当事者の方がいないのですが、一般的に考えてGIDの人が通常の企業に就職するのは難しいのは間違いありません。
実際、女性として入社した会社で今も変わらず働かせてもらえてる僕は相当幸せ者だと思うし、このご時世に資格や学歴や職歴がない人材を正社員として採用してくれる企業は正直少ないと思います。
(アルバイトや自営業で生計を立てている人を批判しているわけではないので気を悪くしたらごめんなさい)
世の中において“男”というものは一家の大黒柱であり稼ぎ頭であり、ゆくゆくは僕自身も家庭を持ったり一軒家を買ったりしたいと思っています。
そして、それができなかった時に「あいつは元女だから」みたく言われたくないです。
別に大金持ちにならなくて良いし一流企業で高い役職を得る必要もありません。
ただ、理解し応援し支えてくれた両親への顔向けができるくらいには社会的に自立し、平凡で良いからパートナーに苦労をかけないくらいの生活をしないといけないと思います。